以前お届けした、タンザニアのコーヒー農園「TANJA」の大雨季の様子では、コーヒーの実を育てる恵みの雨が降る一方で、道の整備や橋の補修など、働く人たちの安全な環境を守るための取り組みも日々行われていることをご紹介しました。そうした風景から、農園で働く人たちの空気を少しでも感じていただけていたら嬉しく思います。
今回からは少し視点を広げて、TANJAという農園そのものがどのような構造で動いているのかを、連載というかたちでお伝えしていきます。
コーヒーは私たちにとって身近な飲み物ですが、その背景にある農園の仕事は、意外と見えにくいものです。このシリーズでは、3回にわたって “一杯のカップの向こう側” で何が起きているのかを、できるだけ自然な形で共有できたらと思っています。
(1) スケールから見えてくる、コーヒーをつくる現場
コーヒー農園というと、ひとつの畑を思い浮かべる方が多いかもしれません。
ですがTANJA農園は、実は約1,760ヘクタール。
東京都千代田区の1.5倍にもなる、とても広大な農園です。ひとつの畑というより、小さな町のような規模をイメージしていただくと近いかもしれません。
その広さは、ゆるやかな起伏とともにどこまでも続いていて、ひと目で全体を把握することはできません。
当然、この規模を一度に動かすことは難しいため、農園はいくつもの区画に分かれ、順番に手を入れながら一年のサイクルを回しています。
そして、農園の一年は10月から始まります。一般的な暦とは少し異なりますが、農園の仕事は自然のリズムに合わせて動いています。
10月頃から雨季の季節が始まり、11月にはプルーニング(剪定作業)を行って木を一度整え、次の生育に向けた準備が始まります。収穫を終え、次の一年へ向けて農園全体が少しずつ動き出すこの時期が、TANJA農園にとっての節目になっています。
広大な敷地を持つTANJAでは、すべてを一度に動かすことはできません。そのため、区画ごとに段取りを決めながら、整備や次の収穫に向けた準備を進めていきます。
広さがあるからこそ、「どこを、いつ、どう動かすか」という判断が欠かせません。TANJAにとってスケールとは、単なる面積の大きさではなく、仕事の設計そのものに関わっているのです。
(2) 圃場と加工場 —ふたつの現場が連動する
コーヒーを作る現場の仕事は、大きく分けるとふたつの領域があります。
ひとつは圃場(フィールド)。
木に向き合い、整え、実を育てる現場です。
もうひとつは加工場(プロセッシング)。
収穫されたコーヒーチェリー(赤い実)を処理し、次の工程へとつなげる現場です。コーヒーは実は果実で、赤い実の中にある種子が、私たちが普段飲んでいるコーヒーになります。
TANJA農園の広い敷地の中には、複数のエリアがあり、それぞれに加工設備があります。収穫期のピークになると、いくつもの加工場が同時に動き出し、農園全体の空気も一気に変わっていきます。
収穫は6〜9月。
この時期になると、圃場と加工の動きはぐっと密接になります。
どの区画で収穫するのか。
どの加工場へ運ぶのか。
どのタイミングで処理するのか。
そうした判断が日々積み重なり、作業は次の工程へと受け渡されていきます。
体力を使う作業と、全体を見ながら流れを整える判断。
その両方が同時に存在しているのが、コーヒーを作る現場の特徴です。
(3) 一杯の背景にあるもの
広大な農園も、一本の木に向き合うことの積み重ねから成り立っています。
区画の選定、作業の段取り、収穫のタイミング、加工場の動き。
いくつもの工程と判断が重なり合いながら、少しずつかたちになっていきます。
コーヒーは農産物でありながら、同時に、流れを繋ぎながらつくられていく生産物でもあります。
広い農園をどう動かすか。
圃場と加工というふたつの現場を、どう連動させるか。
そうした全体像を知ることで、一杯の背景が少し立体的に見えてくるかもしれません。
次回は、この流れの中で実際にどのように区画や作業が動いているのか、もう少し具体的に見ていきます。
次の連載もお楽しみに!